2024年12月14・15日に『イトカズナナエ《十年》二年目〈種子〉』公演が行われます。会場は成城学園前「アトリエ第Q藝術」。イトカズさんは非常に迫力のある踊り手です。私はイトカズさんからアスリート的な力強さを感じています。
冒頭から名前を出すと本人からは「主役は舞台を作り上げる演者と振付家なんだから、名前なんて出してくれなくていい」と言われそうですが、企画『美術と即興』の共同企画者である富士栄秀也さんが企画協力として関わっている公演でもあります。企画協力といっても、かなり深い部分で後押しをされています。
今回はイトカズさんのFacebookでの投稿や、いただいたメッセージなどから印象的な言葉を抜粋しつつ公演の紹介をします。
そもそも《十年》公演とは、どういった公演なのか?
まずは公演の全体像から紹介します。
《十年》公演とは、十年にわたって行われるものです。毎年異なった振付家に依頼し、2作品をプログラムとして上演していく内容です。ダンサーとして「きちんとしたもの」を表現していきたいというイトカズさんの想いがあり、まわりの方々の励ましに後押しされ、立ち上げられたようです。1年目はオープニングに山田奈々子さん監修作品《光明(ひかり)の日》、舞踏家の長岡ゆりさんを振付家として迎えた《Botanical Body》が行われました。
こちらが前回のフライヤーです。
毎年異なった振付家と作品を創るという行為は、非常に意味のあることです。息の合った人と熟成させることも悪くはありません。しかし、さまざまな人と関係を創ることで、幅広い視点が生まれることは間違いありません。十年というスパンの中で、イトカズさんは数多くの引き出しを獲得し、自身のダンサー像を確立されることでしょう。
気になる《十年》というタイトルは、富士栄秀也さんによるものです。ストレートで明快です。
私も『ハート・トゥ・アート』を10回やったらヤメると宣言して動かしていましたが、似たような部分を感じます。富士栄さんも私もプロレス好きです。そしてデストロイヤーの「覆面世界一決定十番勝負」やジャンボ鶴田の「試練の十番勝負」などに心躍らせた世代です(いや、富士栄さんは全日派ではなかったかな?)。富士栄さんが十番勝負の影響があったかどうかはわかりませんが、少なくとも私は「十」という数字は何かを成し遂げるための目安となる数字になっています。
「モノとしての身体そのものと向き合うような作品」
「モノとしての身体そのものと向き合うような作品で、振付を貰った当初は高くて硬い壁の前であがいているような感じでしたが、どうやら作品が血肉に入り込みつつあります」。
昨日(12月4日)、イトカズさんからいただいたメッセージに書かれていた文章です。
今回は流れ的には前回の延長ではあるのでしょうが、一年目とは全く違うものになりそうです。高くて硬い壁を叩き壊すのか、よじ登るのか、すり抜けるのか、そういった葛藤を見せるのか見せないのか、少なくとも前回から一回り大きくなったイトカズさんと出会えることは間違いありません。
そういえば、一ヶ月ほど前(11月9日)にカフェ ムリウイでの「からだ と こえ の会 vol.4」を見に行った時のイトカズさんの存在感は目を見張るものがありました。「人間椅子」に扮した微動だにしない姿から体幹の強さが伺えました。かなり鍛え込んでいるのがわかります。
せっかくなので、その時の投稿を埋め込んでおきます。
私は「モノとしての身体」というのが、どういった意味なのかを公演で確かめたいですし、きっと、かなりポテンシャルの高い作品に仕上がることでしょう。
私は15日の最終公演にお邪魔します。席も埋まりつつあるようですので、お早めに予約されてください。
ベルメールのかなり生々しいのに似てる衣装?
イトカズさんの11月4日の投稿には、こんな言葉が綴られていました。
「踊り込みに(だいぶ前に)入っています。衣装もできて、たぶんこれはベルメールのかなり生々しいのに似てるんじゃないか、とか(図々しくも)思いつつ、最後の追い込み的な稽古をしています。職場仕事が繁忙期すぎて、仕事してリハ行って帰ってきて仕事して細かいところ抜き稽古したら電池切れたみたいに眠って、その間にちょっとずつ、身体の解像度が上がって作品が見えてくる。振り付けていただいた作品を踊るのは、自分の身体が解剖されていくのを見るのに似ている。是非、見届けにいらしてください」
ハンス・ベルメールはドイツの画家です。等身大の人形を制作・発表したことで知られています。YouTubeで作品紹介などの動画を見つけたので貼っておきます。
もしかすると異様な作品を紹介することで、イトカズさんの舞台に余計なイメージを与えてしまうかもしれませんね。
しかし、あえて載せたのには理由があります。
ベルメールの創作活動は、「意味のある労働」や「有益な労働」に対しての反発が込められているという話があります。仕事だけでも目一杯な状況でありながらソロ公演に挑むイトカズさんの根底には、もしかすると現状に対する反発心(仕事だけに埋没したくないとか?)が流れているのかもしれません。
ふと、そんなことを思ったので貼ってみました。
充実した公演フライヤー
公演のフライヤーにも気持ちが込められています。メインの写真は前回公演《Botanical Body》からのものだそうです(撮影:柴田正継さん)。
A3二つ折りの豪華版です。
公演の内容もきっちり説明されていますので、そのまま紹介します。
『十年』
イトカズナナエの踊りを十年間、 定点観測する企画。
毎年一度、アトリエ第Q藝術にて、
年ごとに違う振付家に依頼した作品を上演します。
“ 一年目 ”の翌年は負傷のために活動休止、
実際は三年目に行なう復活の“ 二年目 ” 。どうぞご覧ください。〈光明(ひかり)の日〉
今回から、 映像作品としてこの作品を踊ります。
一一 虐げられても、 踏みにじられた血の跡からも、 いつか花は甦る。
静かな光の中に、 なにげなく、平凡に、そして必ず、咲いてゆく。壱年目:
〈種子〉
種子(しゅし)とは、種子植物が有性生殖で形成する小さな散布体。
「種(たね)」 と呼ばれ、生きるものすべての源であり、
凝縮された未来へのメッセージ。
そこに、命のすべての答えが宿っている
公演の内容と核となっている方のプロフィール
公演は映像とダンスの二部構成です。
オープニング作品 〈光明の日〉
監修:山田奈々子/石丸麻子
撮影:森政也
協力:スタジオn、 工房ムジカ
二年目 〈種子〉
振付:鈴木富美恵
出演:イトカズナナエ
投稿を確認していただいた富士栄さんから補足メッセージを頂いたので、抜粋&整理して追記しておきます。
オープニング作品 〈光明の日〉は、師事していたイトカズさんの源流である山田奈々子さんの監修作品を、後継者の石丸麻子さんの監修で映像化したもので、伝統を継承したものです。二部はイトカズさんが全幅の信頼を寄せている鈴木富美恵さんの振付で、“ イトカズナナエの未来 ” を構築していくものだそうです。
伝統と革新という相反する二つの方向性を同時に見せる公演ということで、一部と二部の変化も見どころの一つといえそうです。
富士栄さん的にイトカズさんの魅力は、「大地に根差した、或いは、全てを凝縮した力強さ」と話されています。私はアスリート的な力強さと書きましたが、“ 瑞々しい巨木 ” のような存在感と言い換えることもできそうです。
また、公演のタイトルデザイン「十」は、十字架から取られているそうです。完全数、完全体、区切り、生命を意味します。愚直に一年一年、一歩ずつ、そして十年で完成体となり、ダンサーとして、あらためてスタート地点に立つという意気込みが込められています。
さらに「そもそも一回では、なし得ない物を掴みたくて立てた企画。イトカズさんの忙しさを考慮しつつ、この規模の公演打とうすると、年に一回が精一杯なんですね。となると必然的に十年掛かります。公演毎の中距離走と、十年にわたる長距離走のミックスみたいな企画です。長いので一喜一憂してもしょうがない。伴走はしてても、走るのはイトカズさん。こっちは自転車乗ってる状態だから、励ますしかない」という補足コメントもいただきました。
こういった存在がいる演者は幸せなことですね。
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振付を担当した86B210の鈴木富美恵さんのブログも更新されていました。今回の企画が実現するきっかけなどが語られています。締めには「我ながら良い作品に仕上がったと自画自賛。ナナエサンの為の作品。あとはお客様にお披露目するのみです」という力強い言葉が綴られていました。
こちらです。
http://dance86b210.blog21.fc2.com/blog-entry-1011.html
「86B210」の公式サイトを拝見しましたが、めっちゃかっこいいです → https://www.86b210.com/
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では、公演の舵取りで重要な役割を担っている3名のプロフィールも掲載しておきます。
山田奈々子
父・山田五郎、 高田せい子、 櫻間金太郎に師事。全国舞踊コンクール 技術部門第3位、全国舞踊コンクール創作部門第1位・高松宮賞・文部大臣賞、世界平和友好コンクール銀賞、第22回江口隆哉賞受賞。山田奈々子モダンダンススタジオ・ダンスグループ主宰。2022年帰幽。
石丸麻子
スタジオn代表。 1988年より山田奈々子に師事。2000年代より、有名アーティストのMV出演、他劇団にてダンスの振付等を行なう。2013年より山田奈々子門下生で結成したユニット「ASMR」作・演出を担当。 現在は山田奈々子の後継者として指導を行なうほか、詩の朗読とダンスのコラボ等、精力的に活動している。
鈴木富美恵
国内外で活動する前衛舞踊デュオ、86b210の振付家、ダンサー。劇 場、クラブ、ストリート、ギャラリーと様々な場所で活動。在仏日本大使館広報大文化センターのParis-Tokyo Festivelを皮切りにヨーロッパ(フランス、イギリス、ドイツ、チェコ)での活動を始める。 現代社会で生きる上での問題や疑問を取り上げて “ 人間らしく生きる ” をテーマにした詩的な作品作りと、感覚的な実験劇場である即興の二つをベースに活動している。 2013年より、Art Space呼応 co-oh 主催。様々なアートが交流する場所としてオーガナイズも行っている。様々なアーティストとのセッション、写真や映像作品にも出演している。
『イトカズナナエ《十年》二年目〈種子〉 』公演詳細
『イトカズナナエ《十年》二年目〈種子〉 』の詳細です。
<公演詳細>
『イトカズナナエ《十年》二年目〈種子〉 』
開催日:2024年12月14日(土)・15日(日)
時間:15:00/19:00(14日)・16:00(15日)
※開場は開演の30分前
料金:予約 3,000円/当日 3,500円 ※全席自由
会場:アトリエ第Q藝術(東京都世田谷区成城2-38-16)
会場公式サイト:https://www.seijoatelierq.com/
出演:イトカズナナエ
石垣島にルーツを持つ。山田奈々子にモダンダンスを、 古関すまこに舞踏を師事。翻訳者、統合医療研究者でもある。日本と台湾を往来し漢方と中医学の研究に従事しつつ東洋の身体を模索する。最近は身体表現と心身の癒しの関わりを探っている。
公式サイト:http://takinohara7.wp-x.jp/
スタッフ
音響:成田譲
照明:早川誠司
デザイン:yamasin(g)
撮影:柴田正継
制作:シーボーズ有限会社
翻訳:李雨潔
企画協力:富士栄秀也
Facebookイベントページ:
https://www.facebook.com/events/882103684020774
ご予約:
主催者・関係者までご連絡ください。もしくはFacebookイベントイベントへの参加ポチにて(主催者より日時・ご予約者数ご確認のメッセージを差し上げます)。
初日を終えての関係者や本人の感想をピックアップ
初日が無事に終わったようです。
評判がいいようですね。「言葉が見つかりません。すごかった」「とても素敵な公演でした」など、snsでも絶賛の声があがっています。
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Facebookに投稿された関係者のコメントをピックアップして紹介します。現在は深夜1時過ぎなので、本人の同意はとっていませんが、どうぞご了解いただければ幸いです。何卒お許しください。もしも掲載不可の連絡があった場合は、削除いたします。
「初日、マチネとソワレ、踊りきりました。気合や勢いではないもの。でも、段取りになってしまったら論外。強靭なワイヤーのような何かを自分から紡ぎ出していけるように。そういう感覚が、ゲネ、マチネ、ソワレ…と、第Q藝術の空間で踊りを重ねていくうちに、身体の実感として形になってきたような」(イトカズナナエ)
「初日、無事、終了しました^_^ マチネよりソワレが、明らかに良くなりました。拍手で明白にわかります。裏方として、率先して手を叩くとかはしないたちなんで、お客様の自然な反応です。何とか、ここまで持って来れたイトカズナナエを誇りに思います。一年目も尻上がりに良くなって来て、3回目が一番良かったので、明日も期待出来ます^_^」(企画発案者:富士栄秀也)
「私は振付家で関わっているので踊ってるわけではないのですが本番ではナナエさんを観ながら頭や身体の奥で一緒に踊ったりアドバイスしたりとにかく忙しいので終わるとぐっったりです。自分が踊ってる方が遥かに楽だと感じます。マチネ、ソワレと2回公演で体力の温存もしながらの準備でしたがマチネ、ソワレとどんどん良くなってきており、それはお客様の拍手からも感じ取れました。企画発案者の富士栄さんによると1年目の時も回を重ねるごとに良くなっていったとの事。明日のステージが楽しみです。とはいえおごらず、焦らず、平常心で望んでほしい。明日のナナエサンの身体も調整するところから立ち合います。今の彼女の最高の状態で望めます様に。そしてそうやって必死に何かを掴み取ろうとする人間の姿を観ていただけます様に」(振付:鈴木富美恵)
私は明日の公演にお邪魔します。楽しみ、とても楽しみです。
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