12月10日(火)、両国「シアターX カイ」での『三浦一壮+深谷正子+松永茂子+佐藤慶子+サーシャ・ペレグリーニ 五’s POINTS』公演。立ち会いの記録「見たこと、感じたこと、考えたこと」。
公演中に私の頭の中で浮かんだこと、振り返りからの再確認、公演前後の雰囲気や空気感なども含めながら書き殴った記録的な文章である。ライブ感をできるだけ残したいので、時間経過に重きをおいている。
ほかに書くことが溜まっているのだけれど、この公演については先に書いた方がいいだろうという判断。内容は、自分自身の記憶や経験と照らし合わせながら思考して検証したもの。
公演の画像が気になる方は、facebookなどで「五’s POINTS」あたりで検索してもらうと出てくる。
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完全即興!? 5つの点が、線となり、面へと広がる景色が見られると期待
開演前、杖をついている Kibe Dancerさんとロビーで出会う。木部さんは12月7・8日に行われた藤井マリさんの公演『崩壊、あるいは異邦人』のゲネプロで足を痛めてしまったそうだ。私は8日公演を拝見したが、手負いであったにもかかわらず激しい踊りを披露していた。終演後の顔色が優れなかったのが気になったが、かなり酷い状態だったのだろう。
身体表現をされる方は、ベストコンディションをキープするのが基本だろうが、いつも100点の状態というわけにもいかない。それでもやり切ってしまうようなプロ意識の差が自身のポジションを作っていく。
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プロ意識という観点からいえば、今回の5名の演者は多くの後輩たちに慕われ、リーダーとして表現の世界を牽引されている方々である。さらに内容は完全即興になると事前に聞いていた。いやがうえにも、期待が高まってくる。
https://heart-to-art.net/improart/blog027-5spoints-20241210/
5つの点が、線となり、面へと広がっていく景色が見られるはず!
今回の期待感は、これに尽きる。
期待に心躍らせて向かった会場に到着したのは開演30分ほど前。ロビーの作品や資料をしばらく見ていると、どこからかリズミカルな音が響いてくる。時間は開演15分ほど前。その音がする先を見ると、サーシャ・ペレグリーニさんがパフォーマンスを始めている。ロビーの床や壁、机などをマレットでリズミカルに叩き続ける。エントランスに向かい、開演を待っているお客さんをも巻き込むような形で高揚感を高めていく。記録係の方々はサーシャさんの動きを追いかけてシャッターを切っている。
ツカミはオッケーといった形でホールへと歩みを進めるサーシャさん。その流れで佐藤慶子さんが、ふわりとした空気感を纏った形で入り込んでくる。そして、ささやくように発する声。
時間は18時58分あたり。開演時間前から、流れるように本番へと移行していく展開。
いまの舞台ではジャンルに限らず、開演前の注意事項を説明するパターンが多い。ほとんどすべてと言ってもいいかもしれない。当然のことではあるのだが、個人的には「言わなくてもいいんじゃない?」なんて思うときもある。
「あ、そういうのはカットしたのね。うんうん、今回は必要ないよね。そういうの全然悪くない」。
そんなことを思いつつ、つぎの展開に期待を膨らませた。
唐突に思い出したラッシャー木村の「こんばんは事件」
いきなりプロレスの話で申し訳ないが、いまから43年前にラッシャー木村の「こんばんは事件」というのが起きた。
その “ 事件 ” は、1981年9月23日、田園コロシアム大会でのメインイベント前のこと。崩壊した国際プロレスの総大将・ラッシャー木村がアントニオ猪木に挑戦するために新日本プロレスのリングにあがった。テレビ朝日の保坂アナウンサーがマイクを向ける。そこで発せられた第一声は……。
「こんばんは」
このマイクアピールはビートたけしによって「こんばんは、ラッシャー木村です」とギャグにされて広まった。
私はラッシャー木村の大ファンだったので、律儀な性格による真っ当な挨拶だと受け取ったが、世間はそうではなかったようだ。
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なぜいきなりラッシャー木村の「こんばんは事件」を書いたのかというと、それが頭に浮かんだから。
開演時間前からいい感じで盛り上がりつつ、サーシャさんと佐藤さんが登場。「さぁ、ここからどうなるのか?」と思った矢先に、佐藤さんの公演の挨拶が始まった。時間にして約5分程度。内容は挨拶だけではなく公演のハイライト部分でハミングの協力をお願いする説明も続けられた。
「わぁー! もったいない!」
これが私の最初の感想。ロビーからの動きの流れを見ていたのは観客全員ではないので、私の勝手なひとりよがりなのだが、本気で惜しいと思った。そして、ラッシャー木村の「こんばんは事件」を思い出したというわけだ。
しかし、「きっと佐藤さんは最後は会場全体が一体化する風景を作りたいんだろうなぁ」「きっとラッシャー木村と同じように生真面目で誠実な方なんだろうなぁ」などと思いながら、気を遣いすぎることがマイナスに作用しなければいいな、とも感じた。
素の人間性が出ることが完全即興の面白さだと思うので、これはこれで全く問題ないし、佐藤さんの批判でもない。そもそも流れを断ち切られたと感じたこと自体が私の思い込みからくる勘違いなのである。そして、「さぁ、ここからが本番だ」と自分の頭を切り替える。
キーマンとなるのは誰なのか? やはり大きく動ける人だろうか?
佐藤さんの挨拶後、19時5分すぎに本番がスタート。宇宙空間をイメージするような電子音が流れてくる。サーシャさんが早速動き出す。マレットやロッド、あとはスーパーボールとか?(遠くて判別できなかった)を使い、シモテから舞台奥、そしてカミテへと移動しながら床や壁をこすり、叩き、これから始まる物語の下地を音で作っていく。
5分ほど音の世界が広がり、低い唸りのような摩擦音が響く。そこで深谷正子さんがシモテより入場。衣装は赤いドレス。追って、カミテから三浦一壮さんが登場。黒いハットに黒の着物、足元は下駄履き。サーシャさんも黒い衣装で、佐藤さんも赤の着物。さらに三浦さんの後ろには、やや遅れて赤い着物の松永茂子さん。
和と洋・赤と黒が混在するという公演の色付けが見えてきた。
ここで三浦さんに当てられた照明によって、舞台奥中央に影が大きく映し出される。今回のシアターX カイの舞台は、段差による傾斜舞台。奥行き感も出やすい。さらに照明の威力によって空間の広がりがグンと増してくる。
18時15分に演者が出揃ったタイミングで佐藤さんが Ocean Drum で波の音を奏でていく。静かで情緒的な雰囲気。だが、広い舞台なので仕方ないが、演者の表情が見えにくい。
スタートから20分ほどが過ぎるが、静的な状態が続く。きっと三浦さん、深谷さんの二人は大きく動くことはないだろう。そうなると今後の展開は松永さん、サーシャさん、佐藤さんの動きが重要なってくると予想する。キーマンは誰になるのか?
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開始から20分ほど過ぎた時点では、5人の点がつながっている気配はあまり感じられなかった。唯一、三浦さんと従者のように続いてきた松永さんとの関係ぐらいだろうか。
そう思い始めたタイミングでサーシャさんはピアニカ、佐藤さんはマイクを通した声でヤマ場になりそうな気配を醸し出す。リバーブがかかり、加工された音が響く。個人的には生音や生声が好みだが、やはり広い空間ならばそうもいってられないところか。
続いて流れたのが「平家物語」の録音。
『祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり……』
すると松永さんの動きが激しくなり、深谷さんは足をバタつかせる。
この言葉については説明する必要はないだろうが、簡単に説明すると「この世のすべては絶えず変化していくもの」「どんなに勢い盛んな者も必ず衰える」という無常感を説いたもの。これは出演者の心境を表したものなのだろうか。
このあたりで30分が経過。
※この続きは、あらためて追記します。一気書きしているので、加筆修正することもあります。どうぞご了解ください。
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