深谷正子 今回のワークショップ公演『美術と即興』を行う理由(存在を深掘りする その2)

このページでは『美術と即興』を行う理由、深谷さんがワークショップ参加者に感じてもらいことなどをお伝えします。

内容は、深谷さんの「原点」「発想の肝と美術の関係性」「希望」という3点にフォーカスしています。

深谷正子 今回のワークショップ公演『美術と即興』を行う理由

深谷正子 今回のワークショップ公演『美術と即興』を行う理由

 

① 深谷正子さんの「原点」

「私は『遅れてきた少女』でした」

穏やかな笑みを浮かべながら語る深谷さんですが、活動の原点は、絶望感だと私(渡辺)は感じさせられました。

深谷さんは大学在学中にダンスと出会い、卒業後にもエッセンスを学びつつ、1976年(29歳の頃)より「動体証明」というシリーズを開始します。ダンスの枠を取り払った、独自の表現追求のスタートです。

『遅れてきた少女』というのは、大江健三郎『遅れてきた青年』をもじった言葉です。1970年11月に発売されたこの作品は、大江健三郎半自伝的小説。死ぬことを夢みていた少年が終戦によって間に合わなかった(遅れてしまった)絶望感にさいなまされてしまう内容です。

深谷さんはソロとカンパニーを並行して行い、額縁舞台(通常の舞台と客席がある劇場)から離れ、さらに自分を追い込むように作品を作り続けてきました。 “ 切る断面 ” を変えながら、新しい鉱脈があると信じながら、自分を追い込みながら活動を続けてきました。その間には足の手術を何度も行い(両足で合計4回)、最近ではコロナに感染して死を覚悟したこともありました。しかし、そういった障壁に立ち向かいながら、決して気負わずに活動を続けているのは、スタートが他の表現者より遅れを取ってしまったという絶望感をポジティブに昇華させた結果といえそうです。

 

 

② 深谷正子さんの「発想の肝と美術の関係性」

「即興の魅力は、作っている瞬間に発見できる面白さがあります。(やることで)生まれてくる結果は、頭で考えていることよりもずっと面白いです」

 

深谷さんが本格的に表現活動を始めてから半世紀となります。約50年の間、考え方を共有できる仲間たちと作品を制作し続けてきました。その過程の中で、さまざまな経験や発見を積み上げてこられました。

今回の企画『美術と即興』は、多様な深谷さんのエッセンスの中でも、美術作品(モノ)と即興(身体表現)の関係性を掘り下げていくことにフォーカスしたものです。

 

「美術とは、身体が触発される存在です。例えば、糸が一本あるだけで、発想できます。発想することは設定することでもああります。設定しないと、コトが始まらない。始められない。美術は(そういった重要なモノを)提示してくれる存在です」

 

例えば物体が持っている質感と自分自身を対比させること。具体的に今回に特化して説明すると、皮膚と紙の質感(坂田さんの作品)が交わることで生み出されるものがあるはずです。また、物体が持っている空間の距離感や遠近感を広げることで、「意識を宇宙まで広げることも可能」だと深谷さんは話してくれました。

 

 

③ 深谷正子さんの「希望」

美術と関係を持ち、即興で自分らしい動きをする喜びを参加者に感じてもらいたい。これが『美術と即興』のテーマです。

「一人ではできない体験を感じて欲しいです。自分の新しいページを開くきっかけになってくれれば」

 

深谷さんは『即興』という表現行為に、大きな希望を抱いています。

「踊りをやっている人に参加してもらいたいのはもちろんですが、むしろ美術や音楽、学校の先生といった何かの指導する側の立場の方、外国人、子ども、世代や立場が異なる人がワークショップを共有することで、それぞれの価値観や生き方に変化をもたらすきっかけになれば嬉しいです」

 

『即興』というジャンルは一般の方々にはあまり届いていないかもしれません。しかし、今回の機会を通じて、深谷さんは「位相転換となってほしい」と願っています。

位相転換というのは、信号波形が180°ひっくり返ることです。抽象的な言い方になってしまいますが、「自分自身が自分ではなくなる可能性」もあります。つまり、『即興』にはそれだけの可能性が秘められていると深谷さんは信じています。

 

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今回のワークショップ公演は、やる側にとっても、見る側にとっても、「発見」の場にしたいと考えています。

新しい自分との出会い、想像を超えるような自分との出会いになることを企画側も強く願っています。

 

 

共同企画者の富士栄秀也さんのメッセージ

共同企画者の富士栄秀也さんがfacebookに投稿されたメッセージを抜粋・再編集して掲載します。

今回の企画は、深谷さんのエッセンスを一人でも多くの人に伝えたいという富士栄さんの想いが原点になっています。この企画を富士栄さん個人でやるのではなく、私(渡辺)に声をかけてくださったことは、新しいことに挑戦する深谷イズムの影響があるともいえるでしょう。

 

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ここ12年で、25回くらいは美術展示会場での深谷さんのパフォーマンスを観ている富士栄さんは、「深谷さんの発想の肝は即興である」と断言されています。そして、今回のワークショップは、身体ひとつで美術に斬り込んで行く糸口を発見するためだと位置づけています。

ここまで書くと、今回のイベントは専門的な人が対象だと思い、尻込みしてしまう人もいるでしょう。いや、それ以前に、そもそも即興というと、いきなりハードルが上がってしまうイメージが強いと思います。私もそうです。

しかし、実際は「畑違いの方、踊ったことのない方などがいきなり参加しても、全く問題ありません」とも書かれています。これは深谷さんの即興の面白さを体感して欲しいという切なる願いともいえそうです。

 

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自分ですら予想できない動きと出会えるのが、即興の魅力です。今回の企画は継続的に行う予定です。正解のない身体表現の面白さを多くの人が楽しめる「場」にしていきたいです。

 

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