演出家・脚本家の久世孝臣が別視点から「白」を考察し、彼の思索を言葉という形で作品としてまとめてもらいました。今回が完結の最終回となります。第1回からお読みください。
6月29日から7月4日までの展示期間では彼の思索の過程をトレースし、ギャラリー内でみていただける仕掛けなどを用意しています。会期後半には関 仁慈&大阪阿部服J.K.の展示を感じながら「新たな思索を言葉に紡いでいく様子」をパフォーマンスとして観ていただきます。
日々、変化していく久世孝臣の言葉を感じてもらうことが、『関 仁慈&大阪阿部服J.K.の展示 En commençant par la fin du blanc 白の終わりと始まり(展示詳細は関連リンクから)』を感じることの手助けとなることを願ってやみません(2015年6月25日更新)。
※展示スタート前に、別視点からの久世孝臣の考える「白」を紹介する予定です。そちらもお楽しみに。
<『白の終わりと始まり』 第1回 2015年6月20日アップ>
白ってなんだろう?
無彩色
彩りのない色
他の色を引き立てる色
黒でもなく、青でもなく、黄色でもなく、
ただ、昔は赤だったことのある白。
白ってなんだろう?
かつて日本には色彩を表す言葉はなく、
光の感覚、明暗を表す言葉のみがあり、
「白」は「はっきりした」という意味の言葉「いちじるし」
という言葉を語源としているらしく…
RGBでいくと、すべての色を混ぜると白になり、
CMYKでいくと何も色がないのが白になる。
…白ってなんだろう?
白の境界
白の終わりと始まりとは?
白について考える。
終わりを意味する白。
始まりの意味を為す白。
どこまでが白,どこから白?
絶対的な白、相対的な白。
鉛白色、乳白色、スノーホワイト、アイボリー、象牙色、灰白色、
白、白、全部白。
白の色々、いろいろな白。
白い世界
雪が積もっていて、誰も踏んでいない広い場所。
それを踏みしめる背徳と快楽。背徳の快楽。
白いご飯おいしい。
夜中に食べる炭水化物の背徳と快楽。
嘘がバレて頭のなか真っ白、
好きな子に告白されて頭のなか真っ白。
白について思い出す
白の終りと始まり
<『白の終わりと始まり』 第2回 2015年6月23日アップ>
言葉の頭に、白をつけてみる遊び。
白い勇気、白い自覚、白い気持ち、白い愛、
白い罠、白い裏切り、白の旅、白の声、白い人々、白に似た午後、
白い服のあの娘。白の明日、白の過去、白い海、白い種。
白ってなんだろう?
白の決意
それは湯けむりの如く立ち上っては消えていく。
僕の白の決意は湯けむりのごとく立ち上っては消えていく。
いくつの夜が過ぎたろう。
僕の決意は白のようで、立ち上って、湯けむりのように消えていく。
いくつの夜が過ぎても、立ち上っては消えていく。
今消えたのは僕の白のような決意で、湯けむりのように消えていくのはもう何晩も前からのことで。
白の決意はいくつの夜が過ぎても、消えていく、立ち上る、消えていく、立ち上る。
どちらが先だったろう。
湯けむりの如く立ち上っては消えていく白の決意。
僕の決意はそれほどまでに柔らかに、空気に溶け込んでは消えていき、
また立ち上る、白の蒸気の決意はどこまでも、優しく、形はなく、
見るものも決意したものも、不安になるほどよんどころがなく、
ただ、僕は、僕自身だけがそれを「決意」と呼んでいるくらいとても固い、柔らかい
白の決意。
白ってなんだろう?
白の形。
色に形はないけれど。
白の意味
色に意味はないけれど。
白の匂い
色に匂いもないけれど。
白の音
色に音もないんだよ。
消滅した白。
誕生する白。
白ってなんだろう?
白ってなんだろう?
孤独の色?
自由の色?
例えば、この、白い仮想空間の中に
意味を置いていく行為。
白を終わらせ、白を始める行為。
書くこと。書くことも白?
<『白の終わりと始まり』 最終回 2015年6月25日アップ>
白ってなんだろう?
もうだめだ。白旗。
白ってなんだろう?
白の終わり?
白は始まり、また終わる。
白は終わり、終わることなくまた始まる。
色とりどりの世界の中で生まれた私にとって、
白は始まりでも終わりでもありません。
それこそが始まりと終わりの真ん中あたりに位置する、
この世界のふさわしいあり方かもしれません。
お腹の中にいるときはだれだって真っ白です。
多分。生まれた瞬間に白は一度終わる。
次に待っているのは世界です。
世界は色で溢れいている。
色でなく、他のありとあらゆるものでもあふれている。
人間にとっては、人間に認識できるものだけであふれている。
でも、そこに乗るか反るか。
自分の色を見つけるか。そもそも、この状態は書き込まれているのか、
真っ白なのか。
僕にとっては世界は大いに書き込みのされている、キャンバス、もしくは五線譜、もしくは原稿用紙ですが、それでも、空白もまだまだ大いにあります。
その空いている白に、何かを書き足すこともできますし、書くことで、埋めるだけでなく、白を強調することもできるし、それが「白ということ」だったりします。
終わると同時に白を始める。
白紙も模様の内なれば、心にて塞ぐべし。
そして、誰かの埋めた空白と誰かの描いた何かの間に自分が埋める隙間を見つけて
何かをしているうちに、一生は終わってしまう。
いつだって、一瞬で白になりうる。
唐突に。
ただ、今、それが、白いのは、ただ、今、それが、白いと思うから。
そして、それすらも白の中では白なのです。
さらに、今、それを白だと思わないのは、今、それが、白だと思わないから。
そして、それこそが白なのです。
(おわり)