『ハート・トゥ・アート』渡辺(@heart__to__art)です。三味線の最大手メーカー「東京和楽器」が8月廃業するというニュースが話題となりました。私は和楽器文化は持ち直しているとばかり思っていましたので、けっこう驚かされました。
新型コロナ感染拡大によってのイベント中止も大きな引き金になっていると思いますが、調べてみると、そもそも和楽器文化は衰退の一途を辿ってきているようです。令和の時代は……日本にとって試練の時代となり、私たちはこれから大きな岐路に何度も立たされていくのかもしれません。
目次
寝耳に水!? 三味線の最大手メーカー「東京和楽器」が8月廃業!
6月28日の『東京新聞』が話題となりました。
内容は、東京都八王子市にある三味線メーカー「東京和楽器」が廃業するというものでした。
廃業のピンチではなく、
決定事項としての廃業です。
これにはびっくりしました。
この記事です。
「日本文化の危機、三味線の最大手「東京和楽器」が廃業へ 需要激減にコロナが追い打ち」(東京新聞)
↑クリックすると、魚拓アーカイブページに飛びます。
念のため、文章も残しておきます。
三味線の最大手メーカー「東京和楽器」(東京都八王子市)が8月に廃業することになった。近年の需要の低迷や昨年10月の消費税率引き上げに加え、新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけた。個人経営からスタートし、前身の会社を経て創業135年、邦楽界を支えてきた老舗の幕引きに、業界では激震が走っている。(山岸利行)
◆4、5月は注文ゼロ
「断腸の思い。4、5月は注文がゼロ。もともと大変だったが、これをきっかけに廃業を決めました」と話すのは大瀧勝弘代表(80)。135台の機械がそろう作業場では、職人たちが胴となる木材を削るなどの工程を黙々と行っていた。高い技術でプロや愛好家、小売業者から信頼され続けてきた。
全国邦楽器組合連合会の調べでは、三味線の国内製造数は、1970年には1万4千5百丁だったが減り続け、2017年には10分の1以下の1200丁となった。同社でも10年以上前は年間800丁ほど製造してきたが、最近は400~500丁に減少していた。
そこへ昨年10月の消費税率引き上げ、今年のコロナ禍も影を落とした。舞台公演や演奏会などは中止となり、修理や新調などの三味線需要もぱったり止まった。こうした状況でも、18人の社員の給料や家賃などを支払うため借金で工面してきたが、大瀧代表は「税理士にも厳しい現状を指摘された。見通しが立たず、私も若くない」。後継者のめども立たず、廃業の意思を固めた。
当初は今月15日で畳むつもりだったが、追加注文が入ったためその完了見通しの8月15日まで続けることになった。残された時間は短いが、大瀧代表は「引き継いでくれる人が名乗り出てくれれば大歓迎」と存続に望みをつなぐ。
◆「大きな事件」
専門誌「邦楽ジャーナル」の田中隆文編集長(65)は「ものすごく大きな事件。1社の廃業でなく、日本文化の危機。修理に時間がかかるなど、いろいろなところに影響が出ると思う。文化に対する国の予算も先進国では最低。東京和楽器の職人は国の宝と考えるべきだ」と懸念する。
長唄三味線の人間国宝、今藤政太郎さん(84)は「私が使っている三味線にも東京和楽器のものもあると思う」と前置きした上で、「(三味線の需要減は)何年も前から言われていたが、来るべきものが来たし、困ったことになった。私たち演奏家も三味線需要喚起のため努力していきたい」と話した。
東京和楽器 1885年、東京・深川で個人経営で創業。その後、杉並で会社組織となり、2002年に「東京和楽器」としてスタート。オリジナルの機械を使った胴や棹(さお)作り、職人の細かな手作業によって、用途や音楽分野に応じたさまざまな三味線を製造、修理してきた。
廃業記事によって、起死回生の奇跡が起きるのか?
この記事はかなりの人がツイッターでもRTされていましたし、多くの音楽関係者にも届いているはずです。
「よし、なんとかしよう!」という大手企業が名乗りを上げ、起死回生の廃業からの継続という奇跡が起こればいいのですが、はたしてどうなることでしょう。
実際に「何か協力できることがあれば!」という声も寄せられているようです。
しかし、文化の守る大きな砦的な存在とはいえ、そう簡単に物事が奇跡的な方向に進むのかどうかは疑問です。
今回の「東京和楽器」の展開が、日本の文化の未来を占う試金石になるような気がしてなりません。
・ ・ ・
仮にこのまま廃業した場合、職人さんたちはどうなってしまうのでしょう。サイトの写真を拝見すると、けっこうな人数がいらっしゃいます。
「東京和楽器」サイトより
http://tokyo-wagakki.com/index.html
別の三味線会社などは、ほとんど個人営業に近いですので、この職人さん全員がどこかのお店に受け入れられるとも思えません。
そもそも、ここまで追い込まれる前に手は打てなかったのか? という素朴な疑問も浮かんできます。
アート関連の世界で生きている人間としては、単に残念がっていても仕方ないので、過去の三味線との接点も振り返りつつ、その辺のことをザッと調べて整理してみました。
「純邦楽、深刻な危機 筝の年間製造数はたったの3900」
調べてみると、朝日新聞の記事(2019年2月25日付)に三味線や琴といった伝統楽器の製造数が減り続けいる記事がありました。
記事には、一般社団法人・全国邦楽器組合連合会(全邦連)がまとめた三味線、箏などの年間製造数が掲載されていました。
思っていた以上に減少の一途を辿ってきていました。
・三味線(年間製造数):1万8000棹(1970年)→3400棹(2017年)
・琴(年間製造数):2万5800面(1970年)→3900面(2017年)
とくに琴の減り方が著しいですね。
実際、全国邦楽器組合連合会(全邦連)は普及に懸命になっているようですが、結果は……焼け石に水状態になっているようです。
サイトを見てみました。
こちらです。
全国邦楽器組合連合会
http://zenhouren.jp/
wordpressを使っての公式サイトです。それなりに頑張って更新されているようですが、なかなか一般には届いていってないようです。
ツイッターはコチラ。
全国邦楽器組合連合会
https://twitter.com/zenhouren
フォロワー117名(2020年07月時点)では、残念ながら懸命にやってないと言われても仕方ありませんね。残念です。
そもそも全国邦楽器組合連合会というのは、どういった組織なんでしょう。東京和楽器さんはお店ではないからなのか、加盟していないようです。
なぜ邦楽や和楽器が低迷しているのか?
1998年、文部省(現文部科学省)は学習指導要領を改訂し、2002年度から中学校の音楽の授業で和楽器を教えることを義務付けるとともに、小学校でも日本の音楽、和楽器を積極的に教材に使うことを指導目標に掲げました。
さらに2014年には「和楽器バンド(尺八・箏・津軽三味線・和太鼓の和楽器に、ギター・ベース・ドラムの洋楽器を加え、詩吟の師範がボーカルを担当するとい8人編成のロックバンド)」がメジャーデビュー。YouTubeにアップロードされた『千本桜』は2019年には再生回数が1億回を突破する勢いがあります。
「家元」や「流派」などの壁(障害)も超えた活動も増え、私は和楽器文化は成長しているものだと思い込んでいました。
しかし、
現実は衰退の一途。
原因はどこにあるのでしょうか? 思いつくままにリストアップしてみましょう。
・安価で楽器を購入できない
・優れた演奏家が少ない
・日常から消えてしまった
・稽古というシステムの崩壊
・日本文化の伝承の断絶
・音楽の多様性に対する理解が低下
・文化の退廃と感性の枯渇
・商売になりにくい
・国家予算の規模の小ささ(文化国家では最低水準)
・楽器職人の評価や地位の低さ
・周知力の老化
こんなことが浮かびましたが、やはりパッションのある演奏家やエキサイティングなエンタメが必要なんでしょうか。
ライブの心の躍動を感じさせるような……。
せめて松村和子さんのような三味線アイドルが登場すれば……なんて思うのは安易で、事態はかなり深刻なんだと思います。
私の三味線遍歴
私は三味線を弾いたことはありませんが、仕事で貴重な経験をしています。語り出すと長くなりますので、2つほど簡単に。
高橋竹山は心の目で見たものを音にしていた!
まず演奏家の高橋竹山さんに密着したことがあります。
実際にお話させてもらい、演奏も間近に見る機会がありました。
もう30年位前だったと思います。
そこで感じたことは、高橋竹山は「心の目で見たものを音にしていた」ってことです。
竹山の心眼から見える景色を音に託していたからこそ、独特の世界が繰り広げられたんです。
例えば、音大卒の演奏家が『津軽じょんがら節』とかを演奏する機会を何度も見てますが、全然つまらないんです。
だって、連中の殆どは自分の技術アピールなんですよね。そこには何も世界がありません。音大卒の学生さんがほとんど売れないで消えていくのは、そういうことです。
それだけの表現力がある人が登場すれば、ジャンルとしての勢いも出てくるのではないでしょうか。
でも、これは「言うは易く、行うは難し」です。
表現って、そういった部分では奥が深いです。
壁に何度もぶつかり、そこで立ち向かい続けるスピリッツを持った和楽器演奏家の出現に期待しましょう。
三絃師・石村憲一さんの取材
これは20年くらい前のことでしょうか。
江戸時代から続く三絃師の家系の担い手、三味線作りの石村憲一さんの工房におじゃましたことがあります。
寝かした素材を見極め、数十もある工程を全部一人でこなして三味線を作り上げる職人さんでした。
現在、三味線の工房が全国にいくつあるかわかりませんが、一人で全工程をこなせる人はほとんどいないはずです。
実際、東京和楽器の職人の何がスゴイかというと、三味線づくりの難しい工程をこなせる職人がほとんど消えてしまった中で、東京和楽器には貴重な技術を継承していた人がいたからなんです。なので、小さな工房は大事な部分は東京和楽器の職人に「外注」もしていたはずです。
だからこそ、東京和楽器の廃業はショッキングなわけです。
廃業とともに貴重な技を習得している職人までも引退したら、三味線という文化が途絶えてしまう恐れがあるわけです。
こんな和楽器の窮地について、石村憲一さんに話をうかがおうと思いきや……なんと、2010年に亡くなられていました。これはショック……。非常に残念。
調べてみると、お店は残っていますので、もしかするとどなたかが引き継いでいるのかもしれません。
私ができることは何もないのか?
東京和楽器の廃業というニュースから少し話が脱線しましたが、私ができることはなにかないのか? 何もないのか? そんなことを考えてしまっています。
考えて解決することではありませんが、何かできることがないのか……悩ましいです。
きく岡邦楽器店(杉並区下井草)
中野や杉並の邦楽関係のお店はいくつあるでしょう。ちょっと検索したかぎりでは、ほとんどありません。
しかし、私の家のそばにあるのは知っています。
中杉通りにある「きく岡邦楽器店」です。
こちらです。
「きく岡邦楽器店」
https://www.kikuoka.net/
中杉通りにある琴・三味線・尺八の専門店で、1962年(昭和37年)創業の老舗店だそうです。高級演奏用から練習用まで、琴、三味線、尺八、篠笛などの邦楽器、譜本、弦・附属品などの販売と修理を行なっているようなので、一度お話を伺いに行ってみるのも悪くなさそうです。
<きく岡邦楽器店>
住所:杉並区下井草1-13-12
電話:03-3310-5868
アクセス:西武新宿線「鷺ノ宮駅」から徒歩約15分、阿佐ヶ谷駅から徒歩約25分
では!
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今回の記事は以上となります。
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