『ハート・トゥ・アート』渡辺(@heart__to__art)です。悩ましい日々を送っている感じです。ついつい長文を一気書きしてしまいました。まぁ、長文といってもそれほどではないですけど。とにかく悩んでばかりいても先に進みません。やはりゆっくりでも前を向いて進んでいきましょう。
目次
アヴァンギャルドに生きたくなる! 『ロックで独立する方法』のメッセージ
個人的な裏テーマありきですが、古いブログを一つにまとめる作業をダラダラとやっています。時間の無駄のような気もしますが、忘れていたことを思い出すきっかけにもなります。新しい情報と巡り会うこともあります。
高円寺の「THYMOL(チモール)」というお店を紹介したブログを再整理(https://www.heart-to-art.net/BLOG/memory/playback-0005/)する過程で、あらためて忌野清志郎の『ロックで独立する方法』という本があることを知りました。
ついでに検索してみると、清志郎のオフィシャルサイトはいまも健在なんですね。ビックリしました。
忌野清志郎公式ページ「地味変」 http://www.kiyoshiro.co.jp/
さて、『ロックで独立する方法』は清志郎ファンもかなり刺激を受けた一冊のようです。紹介ブログを読んでいると、清志郎がファンから贈られた岡本太郎の『今日の芸術』の感想について書かれている部分が目に付きます。
芸術にはアヴァンギャルドとコンテンポラリーがあって、アヴァンギャルドは時代をブッ壊していく。それに対してコンテンポラリーはアヴァンギャルドがやったことをうまく取り入れて流行にしていくんだ。コンテンポラリーが始まっちゃうと、アヴァンギャルドもコンテンポラリーに吸収されちゃうから、古くなってしまう。だからそれを再びアヴァンギャルドがブッ壊してかなきゃならない。自分はそういう存在でありたい。
という清志郎のメッセージが書かかれています。
さらに清志郎は「時代の停滞感や閉塞感はアヴァンギャルドがほとんどいなくなっているから」「アヴァンギャルドがコンテンポラリーに吸収されるシステムが昔より高度に自動化されてしまった面もある」と続けます。
しかし、最後に「そんな時代だからこそアヴァンギャルドをやるチャンスでもあるんじゃないか?そう簡単に理解されないこと、だれもやっていないこと・・・・・・まだいくらでもあるはずだ」と気概を見せつけています。
ファンならずとも熱くなるメッセージです。やはりカリスマ的存在は、まわりを熱くさせる要素があります。
「よし! オレもアバンギャルドに生きるぞ!」。
そんな風に短絡的に思いがちですが、そうは簡単に問屋はおろしてくれません。
実際、新しいことに挑戦するって簡単なことではないです。感情だけで先走っても不毛な行為です。やはり最低限の先人たちの歴史自体を把握していないと「新しいこと」なんてできやしませんから。
ここって、感性一本でやってるアーティストさんたちが陥りやすい部分ですよね。もちろん感性は大事なんですけど。
かといって、イチから歴史を勉強するわけにもいきません。悩ましいところです。いまさらながら勉強の大切さを感じています。勉強は足腰を鍛えてくれますが、鍛えるってことには時間がかかりますから。
結局は走りながら積み重ねていくしかありません。「常に触れたものからエッセンスを吸収しながら(勉強しながら)、自分を見つめ、社会を見つめ、疑うことを忘れずに、自分がグッとくるものを創り続ける」という姿勢が必要なんでしょう。
あまり考え過ぎるとドツボにハマってしまうので、流れとして岡本太郎の『今日の芸術』について調べてみました。
岡本太郎の名著『今日の芸術』のエッセンス
『今日の芸術』は岡本太郎の哲学が余すことなく網羅されている印象です。出版元の光文社のサイトを覗くと、<「伝説」の名著、ついに復刻>と謳われています。しかも序文は横尾忠則、そして解説は赤瀬川原平。かなり豪華ですね。
アマゾンのレビューは77%が星5つの高評価。絶賛する人が多いです。有無をいわさずアーティストならば必読の一冊といっていいでしょう。
全部で6つの章で構成されています。
・第1章 なぜ芸術があるのか
・第2章 わからないということ
・第3章 新しいということは、何か
・第4章 芸術の価値転換
・第5章 絵はすべての人の創るもの
・第6章 われわれの土台はどうか
気になった言葉を並べてみます。
●芸術は自由の実験室です。人間の生命に欠くことのできないものです。
●芸術は絶対に新しくなければなりません。すぐれた芸術家は、たくましい精神で、つねに前進し、新しい創造をしています。
●ほんとうの芸術は、時代の要求にマッチした流行の要素をもっていると同時に、じつは流行をつきぬけ、流行の外に出るものです。しかも、それがまた新しい流行をつくっていきます。
●今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。と、私は宣言します。
●絵画は万人によって鑑賞されるばかりではありません。人間的に生きるためにはすべての人が描かなければなりません。
当時、この本はベストセラーになったようです。芸術家の本が売れるってこと自体がアートですね。
どのくらい売れたんでしょうか。気になってあれこれと調べてみました。
調べてみるもんですね。2014年3月に発行された筑波大学芸術学研究誌『藝叢』に春原史寛さんという方がまとめていらっしゃいました(岡本太郎『今日の芸術』(1954年)とその読者 : 美
術書出版による専門家からの美術の解放/https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=42483&item_no=1&page_id=13&block_id=83)。
※現在、春原史寛(すのはら ふみひろ)さんは群馬大学教育学部美術教育講座准教授。
内容濃い論文です。すごいです。つか、「つくぼリポジトリ」って知の宝庫ですね。こういうのにワクワクしてしまいます。基本的に自分自身は研究者体質なんでしょう。
全部読むのは大変でしょうから、『今日の芸術』発刊当時の状況などをかいつまんで紹介しておきます。
『今日の芸術』が社会、作家、そして岡本太郎自身に与えた影響
『今日の芸術』が発行されたのは岡本太郎が43歳のときだったそうです。非常にいいタイミングですよね。若すぎず、老いすぎず、勢いがさらに出てくるタイミングだったと思います。
See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons
これは『今日の芸術』が出る直前、1953年(昭和28年、42歳時)に自宅アトリエにて撮影された岡本太郎。精悍な顔つきですね。
たちまち10数万部! 非常に稀だった美術家のベストセラー
『今日の芸術』が発刊されたのは1954年8月5日。当時、評論家で知られる大宅壮一の言葉によると「昨年出た彼の著書『今日の芸術』は、たちまち十数万も出てベスト・セラーになった」というものだったそうです。
当時の大ベストセラー作家、伊藤整が『今日の芸術』の推薦文を書いたのも後押しになったようです。「売る」ためには、こういった小細工は必要ですよね。
その後も何度も形を変えて復刊されているので、現段階で何部売り上げているのかは不明ですが、すごいことです。
ターゲットは若い読者層だったようです。実際にどの世代の人たちが買ったのかは不明ですが、20歳あたりで『今日の芸術』読んだ人も現在は65歳前後になりますね。
その辺の世代の方に『今日の芸術』などについて話を振ってみると、面白いことが聞けそうな気もします。ヒマだったら私がやりたいところですが、そこまでの時間的余裕がありません。誰か仕事でやらせてくれたらいいのに(苦笑)。
情熱的な言葉で、岡本太郎はアヴァンギャルドの啓蒙者となった
春原史寛さんはさすがです。論文では当時の作家たちの声も紹介しています。
当時、芸大の油絵科に在籍していたギュウチャンで知られる篠原有司男さんは「時代を創造するためには、いやったらしい芸術を作らなければ駄目だ、と心に誓った」そうです。その後、1957年に中退するわけですが、少なからず岡本太郎の影響があったのかもしれませんね。
ちなみに大昔にテレビ番組で見たボクシングペインティングは子ども心に響きませんでした……篠原さんファン、ごめんなさい。なぜ響かなかったかというと、子ども心に小手先の技法にしか見えなかったし、完成品も心に響かなかったんです。もっと言うと、ボクシング自体が相手と殴り合う競技ななのに、一方的にキャンバス(壁面?)を相手にした技法はボクシングの精神性を貶めているとすら感じたんですよね、子ども心に。
昔のことを思い出しながら書いていると、ついつい余計な思い出話に脱線してしまいます。いかんいかん。
「心はいつもアバンギャルド」と言っていた赤瀬川原平さんは完全に岡本太郎の影響でしょう。「“前衛への道”をそそのかされた」と語っています。
美術評論家の中原佑介さんは「洗脳されたように感じた」と語っているようです。中原氏が初めて岡本太郎の作品を見たのが1952年。「激しい抵抗感と肯定に傾く渇きが内面で交錯した」そうです。そして1955年に美術評論を発表し、湯川秀樹の研究室から飛び出てしまいました。
アートは最後は作品に焦点が当てられるべきだと思いますし、それがすべてだと思います。しかし、それを生み出す作家自身の魅力、言葉、行動なども評価において重要なファクターになる、ということがわかります。
そう考えると、私が知る限り、いまの作家さんは少しおとなしいような気もします。
岡本太郎の言葉がわかりやすく面白いのは『今日の芸術』のおかげ?
『今日の芸術』は圧倒的に読みやすいという評判です。これは光文社の神吉晴夫(かんき はるお)さんのおかげでした。氏が仕掛けた一般層に向けた「新書」というスタイルを確立させるために、手間を惜しまず作られたようです。※これは「創作出版」という手法で、もうちょい後で少し紹介します。
「かんき出版」創業者 神吉晴夫
出展:かんき出版(https://kanki-pub.co.jp/company/founder/)より
春原史寛さんの論文によると、こう書かれています。
本書(『今日の芸術』)は光文社の神吉晴夫の手配により、担当編集者と速記者が岡本の口述を記録することで半年の期間を費やして原稿が作られていった。その原稿を神吉がチェックし、すべて中学2年生でも理解できる表現にするようにという神吉の助言によって岡本が改稿を重ね、共同作業で最終稿が作られた。
中学2年生でも理解できるって部分が大事ですよね。難解な文章は自己満足に過ぎないですから。
この本の発刊により、岡本太郎自身の言葉(文体)もわかりやすいものになった(岡本敏子談)そうです。よく知られている「芸術はバクハツだ!」の名台詞は1981年のテレビCMで流されたものですが、岡本太郎は『今日の芸術』を作り上げる工程で、言葉やキャッチコピーの作り方の大切さに気づかされたのかもしれません。
ちなみに神吉晴夫さんは伝説の編集者の一人です。この人についても少しだけ触れておきます。
『カッパ・ブックス』の神吉晴夫もアバンギャルドだった!
1954年に誕生した『カッパ・ブックス』というのは、インテリジェンスのスタンダードだった『岩波新書』のアンチテーゼとして、大袈裟にいうとアンチ教養主義として神吉晴夫さんが提示したものです。
著名人の作品を有難くまとめていくスタイルではなく、無名ながら力のある著者と編集者がタッグを組んで一般読者に「知の魅力」を届けるスタイルでした。
まさしくアバンギャルド精神ですよね。
ちなみに『カッパ・ブックス』巻末には、つぎのような意気込みが書かれています。
「カッパは、日本の庶民が生んだフィクションであり、みずからの象徴である。カッパは、いかなる権威にもヘコたれない。非道の圧力にも屈しない。なんのへのカッパと、自由自在に行動する。その何ものにもとらわれぬ明朗さ。その屈託ない闊達さ。裸一貫のカッパは、いっさいの虚飾をとりさって、真実を求めてやまない。たえず人びとの心に出没して、共に楽しみ、共に悲しみ、共に怒る。しかも、つねに生活の夢をえがいて、飽くことを知らない。カッパこそは、私たちの心の友である」
さらに詳しく知りたい方は、出版界を席捲した『カッパ・ブックス』の秘密に迫った『カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)』をご覧になってください。ま、詳しく知りたい人なんていないと思いますけど。
アピールするときに参考となる神吉晴夫の「ベストセラー作法十か条」
神吉晴夫さんは「創作出版」というスタイルでベストセラーを世に放ち続けました。
「創作出版」の方法は「企画立案→適切な著者の選定→著者と一緒に苦労を共にしながら原稿を完成させる→宣伝で新規読者を開拓」というスタイルです。まぁ、現在では一般的に行われている編集スタイルですね。
悩ましいのは「著者と一緒に苦労を共にしながら原稿を完成させる」という部分でしょうか。現在でもシッカリとこの関係性を機能させるのは難しい部分でもあります。
さらに新規読者を開拓するとなると、狙ってできることではなさそうです。
そこを狙ってベストセラーを出し続けたところが神吉晴夫さんのキモです。神吉さんは「ベストセラー作法十か条」というものを残しています。きっと、現在でも頷けることが多いと思います。紹介している「十か条」は、私が適当にアレンジしちゃってます。さらに「→→→部分」は、私が勝手に思ったことを補足したものです。
<神吉晴夫「ベストセラー作法十か条」>
(1)読者の核は20歳前後に
→→→本を読まない層を狙い、そのために読みやすく親しみやすい形で提供する。
(2)読者の心理や感情を刺激する
→→→ターゲットの欲求を考える。
(3)テーマは、時宜を得たもの
→→→半歩先を読むことが大事だし、チャンスと見ればスピード感で対応する。
(4)作品のテーマは明確に
→→→振り切った主張が大切。右に行くなら、左は完全カットする。中庸さは曖昧さになる。
(5)新鮮が第一(テーマはもちろん、文体、造本にいたるまで新鮮な驚きや感動を読者に与えるものでなくてはならない)
→→→最近だと『うんこ漢字ドリル』みたいなもの。こういう企画って考えるのは意外と簡単。版元が踏み切るかどうかがポイント。
(6)文章は「読者の言葉」で
→→→若い人向けならば、「マジ卍」で「リアルガチ」な「エモくて」「ヤバイ」文章じゃないと……。いや、これはJK向けか……。
(7)モラルが大切
→→→生きていく上での普遍的なもの、健全な姿勢を忘れてはいけないってことか。現状ではマスコミはモラル崩壊気味。モラル破りは一種のドーピングみたいなもの。
(8)読者は正義を好む
→→→当然、正義とか真実ってどんなものか知りたくなるし、そもそも人間の尊厳に関わる部分は大事。
(9)著者は読者の代弁者である
→→→企画者、著者、読者の三位一体によって共感が生まれ、ベストセラーが生まれるという法則。
(10)編集者はプロデューサーとなれ
→→→「編集者がわからない原稿は、わかるまで何度でも書き直してもらうこと」と補足されている。要するに納得しない気持ちを誤魔化して扱っちゃダメってこと。
(次点/番外)タイトルはセンスである
→→→読者にイリュージョンを起こさせろ! 食欲をそそらせろ! だそう。
こういう先人の言葉を振り返りつつアートに当てはめて考えると、新鮮な見方ができるようになりそうですよね。
アバンギャルドは知ったこっちゃないが、何かを「壊す」ためには「熱」が必要
時代を創るためにはアバンギャルドスピリットが必要なんでしょうね。清志郎にしろ、岡本太郎にしろ、神吉晴夫にしろ、同じニオイがします。
あくまでも感覚的な感想ですが。
そもそもアバンギャルドとかを掘り下げて考える気はしません。知ったこっちゃありません。定義付けするだけで大変そうですから。
結局、冒頭部分にも書きましたが、自分としては「常に触れたものからエッセンスを吸収しながら(勉強しながら)、自分を見つめ、社会を見つめ、疑うことを忘れずに、自分がグッとくるものを創り続ける」という姿勢を大事にしようと思っています。
その過程の中で「壊したい対象物」が出てきたときに発動されるのがアバンギャルドスピリットなんでしょうか。
ついでなので、「破壊」についての自分なりの考えを書いておきます。
「破壊なくして創造なし」って言葉がありますが、それは無闇に戦って物理的に破壊することではないと思っています。
これは物理で考えれば簡単なことです。
固体は無理に壊さなくても、熱で溶けます。
要するに固体(何か)を壊すのに必要なのは、「熱」なんだと思います。
固体を溶かして液体や気体にして、そして違う形に固めていく「熱」こそが「創造的破壊(アバンギャルドスピリット)」のキモなんだと勝手に思っています。
なので熱量が低い人や持続できない人には、破壊も改革もできないと確信しています(異論は認めます苦笑)。
ずっとオレがピリッとしないのは、熱量やろうとしていることのバランスが悪いからでしょう。
あまり自分語りしても仕方ないですが、熱さをどうやって取り戻すかが自分のカギだと思っています。
「熱」を取り戻すためには助燃剤が必要。助燃剤になるのは「憧れ」
年頭のブログ「心を燃やして生きることが必要。では、燃料は何になるのか?(https://www.heart-to-art.net/BLOG/art-activities/new-year-2018-0050/)」で「愛(火種)」と「人(燃料)」について書きましたが、どうもピリッとしていません。どうしても燃え上がらないんですよね。困ったことに。
すでに2月も中旬だというのに、2018年が終わってしまった感すら抱いています。いや、すでに人生自体が終わってる感を抱いています。
燃え上がるまで待っているわけにもいきません。どうしたものかと考えた末に行き着いたのは、助燃剤のようなものが必要じゃないか? ということです。
そして助燃剤について考えているうちに行き着いたのが、「憧れの存在」。
自分なりの「憧れの存在」が助燃剤となるんじゃないかと。
「憧れの存在」をイメージしていくことで、間違いなく細胞がイキイキするのは感じられます。
もしかすると脳内には意志や意識を保持する役割を持っている細胞?(分子?)があって、それは「憧れ」で活性化できるんじゃないでしょうか。
そして、きっとアバンギャルドスピリットも「助燃剤」のひとつなんでしょうね。
そんなわけで、「愛(火種)」と「人(燃料)」と「憧れ(助燃剤)」で2018年を熱く生き直したいと思います。
さて、やらねば!
以上!
グダグダと長文を書いてしまったですね。
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