展示紹介

時間の流れ、歴史の積み重ねと向き合える展示『未象の庭2017―荻野哲哉展』

投稿日:2017-11-12 更新日:

『ハート・トゥ・アート』渡辺(@heart__to__art)です。寒いですね。思わずドラッグストアで「ホッカイロ」を箱買いしてしまいました。なんとなく今年は風邪にやられてしまいそうな気がするので、できるだけ事前に対策したいと思います。

しかし、買ったのはいいんですが、昔に買ったものが大量に残っていたことに気づきました。ついつい買ってしまい、大量のストック・・・みたいなことってありませんか? ちなみにカビキラーもついつい買ってしまうアイテム。多分、4本ぐらいあります(汗)。

 

時間の流れ、歴史の積み重ねと向き合える展示『未象の庭2017―荻野哲哉展』

 

言葉では現せない“深い想い”が込められた作品。感じられたアートの真髄と社会性

『未象の庭2017 荻野哲也展/未象の庭+』は大きく2つの展示で構成されています。共通しているコンセプトは時間、歴史、人々の想い、といったところです。

非常にメッセージ性が強く、アートの真髄に触れられる展示といっても大袈裟ではない内容です。

 

時間の流れ、歴史の積み重ねと向き合える展示『未象の庭2017―荻野哲哉展』

 

葉に焼き付けられた写真……荻野哲也さんの展示

まず荻野哲也さんの展示。落ち葉を敷き詰めたインスタレーション。その中心に配置された板上にはさまざまな人たちの肖像が焼き付けらた葉が置かれていました。

 

時間の流れ、歴史の積み重ねと向き合える展示『未象の庭2017―荻野哲哉展』

時間の流れ、歴史の積み重ねと向き合える展示『未象の庭2017―荻野哲哉展』

 

葉に焼き付けられた写真は荻野さんの家の押入れから見つかった古いアルバムから、日中戦争で亡くなった大叔父を含む軍服姿の人物写真を中心に抜き出したもの。さらに提供してもらった戦争犠牲者の写真を加えてあるそうです。

使っている葉は展示場所の谷中に点在する空襲を生き延びた被災樹木の葉など。

太陽光のみで人物像を焼き付けたものだそうです。

蝋画という手法で作品づくりをされていた荻野さん。何年か前に京橋ギャラリー391で観た展示が印象的でしたが、ここまで進化するとは思ってもみませんでした。

ちょっと調べてみました。

2015年3月のことですね。

ブログにも書いてました(http://heart2art.hateblo.jp/entry/2015/03/12/093555)。

 

荻野哲哉『Spring Has Com -彩り楽ー展』

 

京橋K392ギャラリーで行われた浪川恵美さんの企画『Spring Has Com -彩り楽ー展』。荻野さんは蝋と土、さらに少年時代に撮った微生物の顕微鏡写真を組み合わせた作品を展示されていました。

 

さらにその年の12月に開催されたK’s Gallery企画『アンフィニ(Infini)展 vol.2』では、さらに歴史の重みが加わり、内容がグッと深まり、展示も洗練されていました。

 

荻野哲哉『アンフィニ(Infini)展 vol.2』

 

そして今回。アーティストとしてはもちろん、プロデュースの部分でも大きく進化した形の展示だったと思います。

今後の展開がさらに楽しみです。

 

 

作品としての被災樹木の葉を使う意義

被災樹木とは、焼夷弾などによる爆撃の名残をとどめる樹木、戦火をくぐり抜けて生き残った樹木のことです。じつは私たちのまわりには被災樹木っていうのが残っていたりします。

今回、荻野さんが被災樹木の葉を使うことで社会と、歴史と、そして意識の高い人とのアクセスが深まったと思います。

 

アートの社会性に関しては昔から多くの人が声高に訴えています。すごく大事だと思います。しかし同時に、非常に薄っぺらいと感じてしまうことも多いです。

なぜかというと、感覚的に感じているだけで、あまり深く思考されていない方が多いように思えるからです。

感覚的にアートが大事とかって言うのは簡単なんですが、その先(社会、歴史、過去の人たち)に踏み込んでいない人が多いように感じていますし、それではアートの社会性の壁は乗り越えられないと私は思います。

まぁ、地域活動なんかもそうですよね。ほとんどの人は過去歴史なんて真剣に学んでいません。だから同じことを繰り返すパターンになっています。

 

実際、批判できるほど、私も社会性ある活動はしてませんけど……。

ちょっと私個人の毒を少し吐いてしまいました。

 

とにかく荻野さんは被災樹木を使うことで、アートの社会性の壁をひとつ乗り越えたなぁ。。。と感じています。

こういった作家さんが増えていけばいいですよね。そうすればきっとアートの裾野が確実に広がっていくでしょう。

ちなみにこの展示後、葉は樹の根元へ戻され、自然の循環へ還っていくそうです。

 

旧日本軍が製造した陶製手榴弾の残骸を使った造形作家の作品たち

 

荻野さんの作品展示の奥では、荻野さんを含む7名の造形作家による展示が行われていました。

荻野さん以外の参加作家は以下の6名
田島昭泉(水彩絵の具)
成田浩彰(FRP)
日比野猛(エマルジョン)
古屋菜々(鉄)
松原容子(紙)
松本久恵(植物)

 

展示されていたのは川越の川に廃棄されたまま放置されている旧日本軍が製造した陶製手榴弾の残骸を使った作品たち。

 

日比野猛『未象の庭2017―荻野哲哉展』

日比野さんの作品は、パッと見は「ゆりかご」のような印象。

 

日比野猛『未象の庭2017―荻野哲哉展』

日比野さんの作品タイトルは「b/d core – 見えないものと見えるもの – 」。b/d coreというのは「デーモン・コア(プルトニウムの塊)」とアンチテーゼとしての「ベイビー・コア」の組み合わせ。

 

荻野哲哉『未象の庭2017―荻野哲哉展』

荻野さんの作品タイトルは「昭和19年11月21日午前10時」。陶製手榴弾での爆発事故で亡くなった9名への鎮魂作品。

 

紹介したのは2点だけですが、どの作品もしっかりとしたコンセプトで制作されていました。多角的に楽しめるだけではなく、非常に伝わってくるものがありました。展示は15日までやってますので、ぜひとも足を運んでいただきたい展示です。

————————————–
『未象の庭2017 荻野哲也展/未象の庭+』
日時:2017年11月3日〜15日 11〜19時
会場:ギャラリー七面坂途中(荒川区西日暮里3-14-6)
facebookイベントページ
https://www.facebook.com/events/123073105039696/
————————————–

 

 

川越市内の川原に放置されたままの陶製手榴弾

陶製手榴弾に関しては私も以前から知ってましたが、今回の展示でより詳しく知りたいと思いました。

調べてみると川越の広報誌『戦後六十年 あのころの川越』(2005年8月10日版)に細かくまとめられてました。

 

川越の広報誌『戦後六十年 あのころの川越』(2005年8月10日版)

 

川越市の萱沼の軍需工場「浅野カーリット」で製造された陶製手榴弾

軍需工場「浅野カーリット」の操業は昭和14年(1939年)頃。爆破事故を最小限に抑えるために土塁で囲まれた工場で作られた陶製手榴弾はドイツに送られ、ヨーロッパ戦線で使用されました。

近くの川で発火試験をやっていたので、その周辺は草が生えていない状態だったそうです。

広報誌に証言者として登場しているのは80代の方々。生きていらっしゃるとしたら、現在は90歳以上ですね。

リアルな語り部がいなくなっても、こういった展示によって歴史は語り継がれるわけです。非常に意義があります。

 

 

肝心の廃棄された陶製手榴弾が残る場所は「びん沼川」のどこか

廃棄されたのは「びん沼川」のどこからしいですが、行く前にちゃんと調べておかないと探索作業が徒労で終わってしまうことも少なくないようです。

検索すると陶製手榴弾の話題は山ほど出てきます。いろいろ見ていると、どの辺かは推定できると思います。

水量の少ないタイミングで行くと、驚くほどの量の廃棄陶製手榴弾と出会えるでしょう。

現在はかなり荒らされていて、完全品は見つからないっぽいです。

 

 

さらに検索すると陶製手榴弾展示の撤去騒動がヒットします

2015年に行われた『五美術大学連合卒業制作展』で陶製手榴弾展示が撤去された騒動があったみたいですね。知らなかったです。いや、「ふ〜ん」で流していたのかもしれません。

どうして撤去されたのかをさらに調べてみると、政治的な検閲ではなく、手榴弾の作品に着いた土が問題だったみたいですね。会場となった「国立新美術館」は土とかNG素材が多いみたいです。

撤去されたのは武蔵美彫刻大学院の成清北斗さんのインスタレーション。画像はこちら。

 

成清北斗さんのインスタレーション『五美術大学連合卒業制作展』陶製手榴弾展示の撤去騒動

画像リンクアドレスはこちら。
https://www.hokutonarikiyo.com/works/%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%84%E3%81%AF%E7%A5%9E%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB/

 

 

谷中銀座もいいけど、初音小径に立ち寄るのもオススメ

この日は大阪阿部服JKさんとも会い、帰りに荻野さんを交えてちょい飲み。

阿部服さんは表現者として服飾を中心に活動しています。大阪と東京を行ったり来たりしながら精力的に活動中。今度は映画に出るんだそうです。みんな、いろんなことに挑戦していて凄いです。

最終的に飲んだ場所は日暮里駅そばの安飲み屋さんでしたが、途中で阿部服オススメの初音小径をブラリ。

 

日暮里「初音小径」

 

なかなかいい雰囲気でした。飲み好きだったらギャラリー七面坂途中の帰りは谷中銀座を敢えて外して初音小径に立ち寄るのをオススメします。

 

 

初音小径は昭和テイストが残るアーケード横丁

初音小径は昭和24年に作られたアーケード横丁。戦後、日暮里や谷中に出ていた屋台が屋台廃止令によって営業を行えなってしまい、この横丁を作ったんだそうです。

 

住所的には谷中7丁目あたり。

 

小さな飲み屋がギュッと詰まっている感じでした。十数軒ってところでしょうか。大人数で行く雰囲気ではありませんが、2〜3名程度でじっくり飲むのに良さそうです。

近くには朝倉彫塑館もありますので、ギャラリー七面坂途中とアートハシゴしてから飲むといいのかもしれません。

朝倉彫塑館は昭和の彫刻・彫塑家であった朝倉文夫のアトリエ兼住居を改装した美術館。ネコ好きの人ならば一度は行ってみて欲しいところです。

 

 

荻野哲也さんと出会ったのは17年前。第2回『ハート・トゥ・アート』のとき

荻野哲也さんは第2回『ハート・トゥ・アート』の参加者でした。

過去サイトはこちら。
http://www.heart-to-art.net/histry02.html

参加者はこちら
http://www.heart-to-art.net/nikai01.html

参加者の紹介とか、かなりディープな階層にありますが、時間のある方は徘徊してみてください。

こういった昔のサイトもアーカイブし直さないとダメですよね。

 

ちなみに阿部服さんは第4回ハート、日比野さんは先日の第16回ハートでお世話になりました。いろいろと感慨深いです。

 

<余談>
谷中関係を検索したら、トップに『散歩の達人』のハンドブック「谷中・根津・千駄木・上野 (散歩の達人handy)」が出てきました。


『散歩の達人』は創刊号から何年か購入していましたが、やはり初期がマニアックで面白かったです。とくに鬼畜ライター・村崎百郎(故人)さんの記事はヤバかった。当時(1995年前後)って、非常にグロで鬼畜系のムック本が出ていたと思います。

 

調べてみると「鬼畜のススメ―世の中を下品のどん底に叩き堕とせ!!」には4.900円の高値が。これ、オレも新品同様で持っているから売ろうかな(苦笑)。

 

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今回の記事は以上となります。
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